鳴り物入りの同一労働同一賃金。派遣社員の時給が実質値下げだった件
2020年4月から同一労働同一賃金の導入され、派遣会社が労使協定方式を選択した場合、派遣労働者への手当や賞与、退職金の支給が義務化されました。先日行われた第7回派遣かふぇでゲストの弁護士さんへの質問の中に、この件に関連する興味深いものがありました。
「賞与と退職金込みなのに時給が変わらなかった。違法性がないか労働局に聞いてみたがグレーですねと言われただけだった」
派遣かふぇの参加者からも時給は変わっていないという声が寄せられ、弁護士さんは「脱法行為ですね」と一刀両断。「派遣会社の負担が大きいのでどうするのかと気になっていたのですが、極めて古典的な手法で脱法していますね。」とコメントされていました。
退職金支給義務化の内容は?
退職金の支給方法は3パターン用意されています。
①社内での退職金制度によるもの
②時給に上乗せするもの(退職金前払い制度)
③中小企業退職金共済制度への加入
この退職金制度は勤続3年以上の者から対象です。
多くの派遣会社では②を採用し、契約書に「時給に賞与・退職金を含む」と記載しているようです。
3か月更新で3年で契約満了となる派遣労働者は、派遣案件に合わせて派遣会社を変えるケースも少なくないため、派遣会社を選ぶ際には②以外のパターンを採用し退職金支給を3年目以降としているかどうか、注意が必要になりそうです。
気になる支給額についてですが、賞与に関しては特に言及はが無いようですが、退職金に対しては2018年度の労働政策審議会同一労働同一賃金部会で用いられた一般退職金の費用の水準として『一般基本給・賞与×6%』が示唆されています。そのため年収の6%相当を退職金として支給する派遣会社が多いと考えられます。
計算してみよう
例えば時給1500円の場合、1日8時間月20日出勤と仮定すると年収288万円となり、6%の退職金を支給すると年172,800円上乗せが必要となります。これを時給にすると90円の上乗せが必要となります。
賞与は大手派遣会社の賞与は年収の2%と規定しているところが多いようです。時給1500円の場合は賞与は年57600円、時給30円アップが必要となります。
ということは、本来は2020年4月からすべての派遣労働者は時給110円アップとするのが同一労働同一賃金の趣旨なのではないでしょうか。
時給引き下げは好ましくない
同一労働同一賃金の導入で2020年4月に派遣会社のランク付けに基づき決定した時給について、説明を受けた派遣労働者のみなさまも多かったと思います。時給が変わらなかった人は、実質的に基本給が下がっていると言えます。
派遣会社の査定は、職業安定業務統計の求人賃金を基準値とした一般基本給・賞与等の額(時給換算)を根拠としているようです。
これは正社員の賃金を元に算定されているのですが、不安定な派遣労働者の賃金の根拠としては低い設定です。
この表を根拠にあなたの時給は高いんですよと説明されるのですが、雇用の調整弁としての役割を考えると到底納得できるものではありません。
そもそも賞与・退職金込みとしたときに実質引き下げにするのは問題ないのでしょうか。
厚労省 令和元年 11 月1日公表 労使協定方式に関するQ&A【第2集】のなかに下記の記載があります
「現在、協定対象派遣労働者の賃金の額が一般賃金の額を上回るものとなっていることを理由に、賃金を引き下げることは、派遣労働者の待遇改善を図ることを目指す改正労働者派遣法の目的に照らして問題である」
「通勤手当等を支給する一方で、基本給を引き 下げ、派遣労働者の賃金の総額を実質的に引き下げることは、改正労働者派遣法の目的に照らして問題である」
厚労省が問題があるとしている基本給の実質引き下げが横行していることになります。
実態を調べたくてアンケートをしてみた
第7回の派遣かふぇのなかで、弁護士さんから実質的な引き下げは脱法行為なので数をまとめて国会で議論してもらった方がよいというアドバイスをもらったこともあり、twitterでアンケートを行いました。100件の回答があれば良いと考えていましたが、600件を超える回答があり驚いています。
たくさんのご協力ありがとうございました。https://platform.twitter.com/embed/Tweet.html?dnt=true&embedId=twitter-widget-0&features=eyJ0ZndfZXhwZXJpbWVudHNfY29va2llX2V4cGlyYXRpb24iOnsiYnVja2V0IjoxMjA5NjAwLCJ2ZXJzaW9uIjpudWxsfSwidGZ3X2hvcml6b25fdHdlZXRfZW1iZWRfOTU1NSI6eyJidWNrZXQiOiJodGUiLCJ2ZXJzaW9uIjpudWxsfX0%3D&frame=false&hideCard=false&hideThread=false&id=1284670476829089792&lang=ja&origin=https%3A%2F%2Fnote.com%2Fhaken_cafe%2Fn%2Fn4e4d0218aa1b&sessionId=ab2af74b9e2faf08208240ca59e7dda8f6527755&siteScreenName=note_PR&theme=light&widgetsVersion=82e1070%3A1619632193066&width=550px
8割近くが時給変わらずの脱法行為となっているもようです。
ここからはこのアンケートによせられたリプライ(返信)や引用リツイートなどの反応をご紹介していきます。
時給変わらず(実質ダウン)
交通費は別途支給になりましたが、時給はそのまま。ずっとテレワークでフォロー担当との面談がないためか、賞与と退職金についての説明がなく、このツイートで賞与と退職金が支給されることになったのを知りました。契約書に賃金に含めて支給の一行が追記されているのを今初めて知りました。
2019年1月から無期雇用、交通費1万円まで時給込支給。実質時給60円ダウン
2020年4月交通費全額支給とのことで、派遣元から派遣会社への時給アップ。派遣社員の時給かわらず。
6月更新時時給アップ交渉お願いするも、4月に上げたと派遣先から言われ上がりませんでした。
今、交通費全額支給とのことで明細確認するも、1日往復×出勤日(有給含まない)のため上限1万円より少ないことが判明。1ヶ月定期でかっているので、出勤日19日以下だとマイナスです。
交通費を支給してもらうだけで精一杯だと派遣会社から言われました。
退職金と賞与はどこ行った?
つまり実質時給下がったってこと?
時給は1円も変わりません…
時給は変わりません。交通費は電車の定期券代のみ出ていましたが、4月からはバスの定期券も出るようになりました。
時給変わらず、交通費が別途支給になりました。
特に説明も無く時給も据置です。交通費が支給されるようになりましたが、派遣会社が決めた謎ルートを設定されてます。
何も変わっていません。
むしろ上長の異動があり、私の仕事量は莫大に増えました。
『あれやっといて!』
『これExcelで作って!』
作ってる終盤に追加とか言い出したり。仕事で一番いやなのは二度手間なのに、それが何回も来る。整理してから頼んでこい!
近郊在住とのことで交通費無し。
時給アップもありませんでしたが、その後20円だけ上がることになりました。
後で分かったことですが、その頃同じ派遣会社から来ていた派遣社員の方が派遣先に正社員登用されることが決まっていたので、その後ろめたさから急遽上げてくれたのではと勘繰っています。
時給アップ
ほんの気持ち程度で上がりましたが、それも経験値による物。
決して賞与や退職金の分は加味されていません。
4年目無機転換しましたけど、時給はごねてごねて、50円up
身に付けた技術はもっとのはず…
コロナじゃなきゃ、転職したと思う
時給は30円アップ。
賞与と退職金はそもそも時給に含んでいるとの説明でしたが、“好意で”退職金として月1000円の支給だそうです。それを時給と考えるかはお好きにどうぞと言われました。
上がりましたが、15年以上も働いての額ではなかったです。
派遣先の待遇にあわせるのではないのですね。
時給も納得いかないし、月給にならなかったのも残念。
年収の3倍〜6倍は違うと思います。
ガッカリしました、もう後がないのであきらめてます。
下がった(下がるケースは想定外のため設問なし)
4月を跨ぐ時期に就業案件(2月始業)で2月3月は時給+50円
4月からは交通費が出て時給-50円でした。
前職が4月からの時給と同じだったので,もしあのまま勤めてたら「交通費出すから時給-50円ね」と言われたのかと気になりますゾッとしている顔
その時期の求人は「3月までは上乗せ/4月から交通費+時給-」多かったです
下がった項目はないんですか
時給査定につて
職務ランクがA〜Dまであり、なんの説明もなくD。実態はA〜Bなので、実態に合わせて欲しいと伝えたら「ABはあり得ないです。みなさんデフォルトでDです」とわけのわからん説明してきた。いや、これ派遣社員の労使協定ですけど。。。その後3ヶ月間質問し続け、やっと職務ランクをBにしてもらえました。
職務ランクによって年1回のパフォーマンス手当1〜3%UPなので、職務ランクが違えばUPする時給が変わってきます!
ちゃんと実態にあった職務ランクにしてもらわな困る。
でも、来年パフォーマンス手当がMAX 3%UPしても調整手当が減るだけで実際の時給は変わらないそうです。
試算では20〜30年時給同じ。
職務給+パフォーマンス手当+調整手当=時給
どんなに頑張ってもこの内訳が変わるだけだそうですよRS。
頑張って評価される→パフォーマンス手当UP→調整手当DOWN→時給は今までと変わりません!ってなるそうです。
来年、この辺りの不平不満が派遣社員から出てくると予想してます。職務給について、Aランクの高度な専門性を要する業務であっても「一般の労働者の能力・経験」の「2年」となっています。
今までの社会人経験の中で、2年目の正社員で「高度な専門性を持つ人」に出会ったことがないです。この職務内容と一般労働者の能力・経験に合理性が内容に感じています。
派遣元は「労使協定方式」を採択しています。話は飛びますが、確か希望者に対して行われた説明会で(うる覚えですが)賃金の元になる統計はその職種の「2年目」を基に算出とか言ってました。
これじゃ何年勤めても上がらない…号泣
統計これかな↓
注)職業安定業務統計の求人賃金を基準値とした一般基本給・賞与等の額(時給換算)
https://mhlw.go.jp/content/000526707.pdf
地域で北海道は賃金が黙って9割か8割(?)になるとも言われました。
内閣の骨太計画だかで地域分散社会の促進だかなんだか閣議決定されたけど、本気だったら賃金格差なんとかして欲しい。
経験も積めば、知識も増え生産性も上がります。が、キャリアを積むことに意味がないのだと思いました…
派遣元が私たちを企業に高く売りこまないのは、企業側は質より量で安い人材を求めているから。よって離職率も上がる。
このスパイラルなんとかならないものですかね
うちも労使協定方式。大企業でそれなりの技術を提供しても、中小企業に足を引っ張られた感じです。さらにランク基準を聞いても社内規程としか言われず、何をクリアしたら時給があがるのか分からないままでした。分かったのはいくら経験があっても教える相手がいないとダメってこと。
挙句の果てに今回の騒動で派遣切りです。
私は当初、入社半年の査定と言われました。
ものすごい抗議をし、それでもやっとちょっとだけ評価が上がっただけで時給はその時のままです。バカにしてますよね。
交通費が支給されただけです(しかも最短ルート、自己負担あり)。
ランクとやらは全く説明がありません。
契約書に記載されているだけです。
時給算定の説明等は派遣会社からはありません。
派遣会社から届いた書面に「4月から時給に賞与と退職金を含む」と書いてあっただけです。ランクについての記載は無し。営業からの説明はありません。
時給は変わっていませんが、具体的な説明を受けていないので、時給の内訳(賞与部分、退職金部分、実質時給)は分かりません。
派遣会社からのメールでランクの通知がきただけで営業からの説明はなかったです
(知識があるのであえて突っ込まなかったのですが)
ランクも本人の能力ではなく契約書の業務から推測されたもの
実際に能力があっても評価していないです(する気がない)
時給はそのままでしたがランク時給はそれ以下です
そもそもの基準とする賃金が低すぎる‼︎
退職金について
派遣社員の退職金について「勤続3年以上の派遣労働者」から退職金の対象。3年ルールで契約満了となり派遣会社を変えた場合は退職金の対象にならない
実質的には3年未満での解雇・転職とならざるを得ない派遣制度の実態にそぐわないですね。ブランクになってしまう場合も少なくないですし。勤続3年以上というルールをクリアするのは相当厳しそうです。
その他のコメント
3月末で契約終了(その派遣先は派遣全員3月末まででした)
次の派遣先は4月5月は営業自粛のため勤務数回で5月末で契約終了
世知辛い世の中ですね
派遣の時給はその人のスキルや能力で決まるのではなくて、仕事の内容で決まるもの。だから、時給1200円と値付けされた業務なら、個人が持っているスキルが高くても低くても経験があってもなくても1200円。ある意味同一労働同一賃金。
残業代の計算が、基本給(つまり、賞与と退職金除く)ベースで計算なので、時給ダウンでモチベーションなんて上がらないよね…。(私はそれで前職場を離れる事にしました)
同一労働同一賃金に、労使協定方式なんて選択肢無ければいいのにね…。
今年4月に派遣法が改正になりましたが、コロナで日本社会が混乱し、法改正がほとんど世の中に周知されていない印象です。派遣社員の待遇改善、安全確保は世の中で優先順位がかなり低くなってしまった様に感じます。
第8回派遣かふぇで伝えてみます
第8回派遣かふぇには厚労省の職員さんが参加されるため、この結果をまとめてお伝えしたいと考えています。
7月25日までお申込みを受け付けていますので、ご参加お待ちしています。
平日ということもあり参加が難しいみなさまには投稿フォームをご用意しています。ご活用ください